2016年04月02日

環境問題の凝縮としてのハイテク汚染 〜吉田文和『ハイテク汚染』〜

こういう類いの、環境問題に関する専門書(入門書)を読むと、いつものことながら「知らぬが仏」という諺がしみじみと感じられてならない。
危機だ危機だと、ただ漠然と騒がれてもそれまでだが、こういうふうに数字や物質名を逐一詳らかにされると、たちまち目の前に暗雲が垂れ込め、どうしようもない無力感・脱力感に襲われてしまう。
これまで高榎堯『地球の未来はショッキング!』、福岡克也『地球大汚染 黙しているのはもう限界だ』、岡庭昇『飽食の予言』を読んだ時もそうだった。

さてここで、本来なら環境問題についての一般論に入るところだが、とてもちょっとやそっとの枚数で述べられるものではないので、省略しておく。
ただ一言だけ言っておくと、私は環境問題に対して極めて悲観的な見方をしている。

本書の感想に戻るが、かつてハイテク産業といえば、それはいつもクリーンであると言われたが、今やその神話は崩壊した。
有機溶剤による地下水汚染、有毒化学物質問題など、やはり環境汚染の原因になりうる。
そこへもってきて“日本”という特殊性。
本書では最初の方でアメリカのシリコン・バレーの現状レポートがあり、環境保全に関して日本より遥かに法規制等が整備されている
(例えば、人の健康に関わると認定されている有害廃棄物質は日本ではたった9物質なのに対して、アメリカでは450物質である)
アメリカでさえこの有り様だ、果たして後半の日本の現状の杜撰さはいかほどか、と早くも心配になったが、その予感は見事的中した。

宮崎市では半導体工場の排水箇所よりも下流に水源がある、というのはほんの一例である。
日本政府・企業の基本方針は
「地下水保護の法整備については、『発ガン性』の疑いだけで規制するのでは不十分であり、また環境への蓄積性が確認されるまでは使用を規制しない」
ということだが、こういう本末転倒な考え方は、全て環境破壊の諸悪の根源の1つである「生産至上主義」に起因している。
この方針は要するに金儲けのためには大規模な「人体実験」をも容認しますよ、と言っているに等しい。

環境問題の一般論についてはここでは触れないと前述したが、本書には、環境問題一般についていえることが、ハイテク汚染という一例を取り上げていながら、全て集約されていると言える。

「東芝太子工場は、正式には汚染の責任を認めず、あくまで『寄付金』として、水道切り替え費などを支払っており、いまだに勇気塩素系溶剤の使用を続けている。
原因調査にあたった県当局は、地下タンクからの漏れを事実上みとめながら『原因不明』とし、土壌ボーリングによる深度別汚染分析も十分行わず、住民の健康調査も必要なしとした。
住民は井戸水の安全性に不安をもちながらも、散水や風呂に依然として使用している」(P.141〜142)

「半導体製品自体の性能向上が第一の目的であるから、そのための原料ガスや工程には苛酷な条件が求められる」(P.88)

「これらの措置(引用者注『安全な飲料水と有毒物規制に関する1986年法』(プロポジション65))が過剰警告になり、消費動向によって経済的に不利益になる人の出ることを州政府は恐れているが」(P.56)

これら3つの引用は、「環境破壊の元凶の1つは生産至上主義である」ということを象徴しているし、

「以上のように、洗浄剤は有機溶剤にしても、フロンガスにしても、いまや出口なしの状況を呈しているのである」(P.34)

「第四に、浄化のためのばっ気(蒸散)法は、大気への揮発を通じて大気汚染の可能性がのこる」(P.67)

「つまり、水の量と質に大きく依存するハイテク産業が水を汚染したことで、自らの行動の自由を制限されることになったのである」(P.73)

これはの引用は「環境保全運動の八方塞がりの状態、限界」を示唆しているのである。

また、
「工場の誘致・立地にあたっては、自治体と地域住民は、その工場が何をつくり、何を使うのかをよく知らねばならない」(P.185)

という一節は、
「環境問題にあたっての、当たり前なのに忘れられてしまった純然たる前提」
であるし、それに対しての政府の、
「化学物質についてのデータは企業の財産であるとする政策」(P.186)
は、やはり前に戻って、「生産至上主義」の成せるワザである。

ハイテク汚染問題は、これら全ての環境問題に共通する要素を内包している。
よってハイテク汚染を解決しようとすれば全ての環境問題も自ずと解決されるし、逆に言えば全ての環境問題を一括して解決する方法でなくては、どんなに小さな環境問題の1つさえも解決され得ないということを、肝に銘じるべきである。
                (1991.9.30、20歳)

ラベル:吉田文和
posted by nobody at 03:14| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書録 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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