2016年06月14日

タフで能動的な男達 〜読売新聞大阪社会部『ドキュメント新聞記者』〜

新聞には、ほとんど余白がない。
昔から、それが不思議だった。

いうまでもなく、新聞は1日で作られる。
しかも、以前本か何かに、新聞に掲載できる事件は原則的にその日の午後5時までに起きたものが対象とされると書いてあったのを記憶している。
夕刊も発行している新聞社となると、なおさらきついことは言うまでもない。

つまり、よくもそんな限られた時間の中で、あれだけ活字でびっしりと埋め尽くされた紙面が作れるものだ、と感心していたのである。

仮に、1日に1件も、事件・事故が起こらなかったとする(実際そんなことはあり得ないだろうが)。
果たして、そんな時翌日の新聞はどうなるだろうかと、考えたことがあった。
恐らく新聞社は、そうなってもいつものように、活字に満たされた新聞を作り上げることだろう。

だが現実には、新聞に載っている事件は、その前日に起きた事件のごく一部に過ぎないだろう。
どの事件を載せ、どの事件を載せないかの取捨選択が、綿密に行われているに違いない。

そんな膨大な数に上る事件を扱うわけだから、新聞作りはとにかくスピーディーにやらなくてはならない。
時間との闘いである。
“時間との闘い”とは、単に速さだけを指すには留まらない。
新聞に載る事件は原則的にはその日の午後5時までに起こったものと前述したが、それはあくまでも“原則的に”であって、それ以降に起こった事件でも、急遽紙面に組み入れられることはしばしばある(その辺の紙面の組み直しが凄いと思うのだが)。
したがって、記者には“不寝番”なる役割が存在する。
文字通り、寝ないのだ。
ここにも、“時間との闘い”がある。

本書を読んで一番感じたのは、その辺のことである。
「新聞記者は不可能なことを可能にして働いている」
と言っても過言ではない思いさえ抱かざるを得なかった。
とにかくタフな男たちである。

“時間との闘い”も厳しいが、新聞記者にとって、取材して情報を得ること自体も非常に難しい。
次の引用を読めば、それは明らかである。

「新聞記者にとっての戦いの相手は、猟銃を持ったアフロヘアーの男だけではない。厳しい報道規制をとっている警察も、それに、取材に対して決して協力的とは言えない銀行も、この瞬間には敵なのだ」

「猟銃を持ったアフロヘアーの男」というのは、本書で取り上げられている、昭和54年1月26日に起こった三菱銀行事件の犯人・梅川昭美のことである。

つまり、警察も銀行も、新聞記者が取材に来たとしても、
「やあ、どうもご苦労様です。さあどうぞ訊いて下さい」
と歓迎する、ということは全くないのである。
むしろその逆で、新聞記者にはできるだけ情報を漏らすまいとしている。
この点が、どうしても最後まで腑に落ちなかった。
だから、記者達は、警察の多重無線車のそばに半日近くずっと立っていたり、車の陰に隠れて捜査員の会話を盗み聴きしたりしなければならなかった。

情報を公開して何か差支えがある場合なら話は別だが、何の差支えもないのに情報をひた隠しにする。
少しでも情報が欲しい新聞記者にとって、これほど歯がゆいこともなかろう。
新聞に情報を公開することによって、事件の解決に良い影響を与えることが過去に何度もあったのだ。
近年ではソ連のチェルノブイリ原発事故の際の秘密主義が世界の批判を浴び、その後国連の国際原子力機関(IAEA)によって原発事故の際はいち早く通報することが義務付けられたが、原発周辺の住民は最後まで事故を知らされなかったため、その多くはガンになるだろうといわれている。

また、記者達の動きが非常に“能動的”であることにも感心した。
人からああしろこうしろと命令されるのではなく、自分からああしよう、こうしようという意志をもち、取材に移るのである。
しかもそのどれか1つでも欠けていては記事が成り立たないような、大事なことばかりだった。
これは偶然によってなのかそれとも必然的にそう動いたのだろうか。
どちらにしろ、今後そういう行動のとれる人は貴重な存在となるだろう。

現在はとかく、“高度情報化社会”と言われがちだ。
私など、新聞に大きく載っているから、あるいはテレビで大きく取り上げているから、この事件は大事件なんだなと、その事件の本質に自ら近づこうとせずに判断を下してしまう傾向がある。
今はそういう人が、皮肉にもそのマスメディアによって作り出される夥しい量の情報によって、私も含めて増えている。
そのような社会において、これまで以上に新聞のもつ役割というものは大きくなってくるであろう。

(1989.1 17歳)

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